ツタヤ図書館建設で談合疑惑、和歌山が入札偽装か…情報開示請求に“黒塗り”回答

ツタヤ図書館建設で談合疑惑、和歌山が入札偽装か…情報開示請求に“黒塗り”回答
「こんなん、話にならへん。適切に開示してほしいと言いました。出ないなら、公正取引委員会に告発すると、担当課長に詰め寄ったんです」

そう振り返るのは、和歌山市議会の林隆一議員だ。

2月17日付当サイト記事『ツタヤ図書館、建設で談合疑惑浮上…和歌山市、入札前から特定業者と資金計画について会議』で報じた通り、市民図書館が建設される南海和歌山市駅前の再開発プロジェクトで談合疑惑が発覚した。今回は、その続報をお届けする。

談合疑惑の端緒となったのが、前回紹介した文書に先駆けて、去年の12月17日に開示されていた、下の文書である。林議員が怒ったのは、この文書についてだった。

「資金計画作成業務」「基本設計業務」「実施設計業務」など5つの設計関連業務の指名競争入札の結果が5枚にわたって記されているのだが、はっきりとわかるのは、それぞれの契約金額と落札企業名だけ。この手の発表では、必須事項となっている、入札日、予定価格、契約額、入札参加者数、入札企業名、工期(納期)、落札率などの項目は最初から存在しておらず、詳しく見ても、いつ、誰が、誰に出した文書なのかすらわからない。

これら5つの業務をすべて1社で落札したのは、アール・アイ・エー(RIA)だった。レンタル店・TSUTAYAの運営会社、カルチュア・コンビニエンス・クラブ(CCC)のフラッグシップである代官山蔦屋書店を手掛けたことで有名な設計事務所だ。

この情報の開示請求をした地元市民団体のメンバーが、こう振り返る。

「これを見て、すぐ本当に入札で決めたのか怪しいと思いました。特に、3社が入札に参加したことになっていますが、ほかの会社名はすべて黒塗り。これも出してください、おかしいのではないかと抗議しましたが、『これ以上は出せない』の一点張りでした」

そして、何より驚くことに、この文書には、入札した日付すら記載されていない。これでは、ほかの書面と照らし合わせた検証は不可能だ。

一昨年12月、南海和歌山市駅前にできる新しい市民図書館の指定管理者にCCCが選定された。筆者は昨年4月、その不可解な決定プロセスを調べるため、和歌山市に対して「駅前再開発プロジェクトについて南海電鉄と話し合った内容がわかるすべての文書」を開示請求した。

その顛末は、18年9月12日付当サイト記事『和歌山市、ツタヤ図書館に64億円税金投入…関連文書の情報開示請求に全面黒塗りで回答』で報じた通り。ダンボール1箱分・約1400枚の文書が昨年7月に開示されたが、文書の97%が黒塗りされていて、肝心なことは何もわからなかった。

わずかに残された白い部分を詳しく分析した結果、筆者が真っ先に疑問に感じたのは、この会議が始まった翌月から出席しているRIAがどのようにして選定されたかだった。

その点を、和歌山市と南海電鉄に問い合わせても、納得の行く回答は得られなかった。開示請求しても黒塗りばかりだが、和歌山市のルールでは、市外在住者は開示された文書に対し不服の申し立てすらできない。

そこで、和歌山市内で活動する市民団体のメンバーに相談したところ、筆者と同じ問題意識を持っていただき、開示請求の結果、冒頭で紹介したような文書が出てきたという経緯である。


情報を隠そうとする和歌山市


一方、市民からこの件で相談を受けていた林議員は、もともと図書館問題に理解があったこともあり、開示請求前に担当部署に問い合わせていた。

「和歌山市民の開示請求ということは、もし非開示になれば審査請求を経て住民訴訟に発展する可能性もあるため、そのへんを事前に担当部署にクギを刺して、適切に開示するように要請しました」(林議員)

ところが、そうした働きかけにもかかわらず、昨年12月17日に出てきた文書の中身は、冒頭で説明した通り、日付や署名すらない、実に怪しい公文書だったのだ。林議員は、こう振り返る。

「ちょうど4年前に、和歌山からの佐賀県武雄市視察にもRIAが同行していたことが報道されていたので、これは談合ではないかとの疑いが湧きました。『出さないと公取委に告発しますよ』と言ったところ、担当課長が南海電鉄に問い合わせてくれましたが、結局、これ以上は出ないという結論でした」

開示された5枚の公文書について筆者が担当部署に確認したところ、これらは南海電鉄が和歌山市に報告した文書の一部らしいことが判明。ヘッダーと前段部分が飛ばされているため、作成者も日付もわからない文書になっているということらしい。しかし、これらの落札情報について、市は詳しい文書を保管していないため、これ以上開示請求されたとしても、何も出せないという。

となると、新たに別の角度から開示請求をかけるしかない。ちょうど市民図書館の内装について公募されていた施工事業者の落札結果が出ていたため、その書式に則って、RIAが選定された指名競争入札の詳細を開示してもらうことになった。

「1月18日に市政情報課に行くと、開示申し出書を書いてほしいと言われたので、それを書いて出しました。しかし、担当部署には『RIAの落札情報が詳しく書かれた書類がないので、新たに作成したメモのようなものしか出せない』と言われました。このとき、よく覚えているのは、対応してくださった担当部署の責任者の方が極度に緊張しているのか、口元がガタガタ震えていて、もう尋常でない様子でしたね」(市民団体メンバー)

いったい、この責任者は、何に怯えていたのだろうか。

そうしてようやく2月4日に出てきたのが前回紹介したペラ一枚の落札情報である。この文書をみると、市民が要求した数字だけは網羅しているものの、担当部署が「メモしかない」と言っていただけに、誰が作成して誰に出したのかすらわからない怪しいものだったが、さすがに今度は、5つの業務については、こちらが要求していた、入札日、予定価格、契約額、入札参加者数、工期(納期)、落札率の7項目は、一応、すべてが開示された。ただし、入札参加者名だけは開示されなかった。

「このときも、入札参加者が3者となっていましたので、あとの2者がどこか、社名を出すべきと抗議しましたが、受け入れられませんでした」(同)


談合の事実を隠蔽しようとした可能性


以上のような経過で、ようやくRIAが一連の設計関連業務を落札した金額等がひととおり開示された。事実解明に役立ったのは、ひとつひとつの出来事の日付である。

この情報を、すでに開示されていた関係者会議録と照らし合わせてみたところ、以下のことがわかった。

・「資金計画策定業務」の入札日は「平成28年8月1日」となっている。

・関係者会議録をみると、その業務は、1年半前の「平成26年12月27日」にすでに完了していることになっていた。

先に事業者が決まって業務を完了した後、形式的にRIAが落札したと偽装したかのようにみえる。つまり、指名競争入札が行われる約2年前に、すでに関係者間で内々に事業者は決まっていた疑いが濃厚になってきたのだ。

昨年12月17日の開示文書で、和歌山市が落札の日付すら明示しなかったのは、こうした談合の実態が発覚するのを恐れたためではないかとの疑いを持たざるを得なかった。

詳しい検証内容と当事者の釈明については前回記事を読んでいただくとして、この顛末について、ある図書館関係者は、こんな感想を漏らした。

「(南海電鉄は)RIAに決めていながら、競争入札を行っています。競争入札自体が茶番劇ということになってしまいます。そして、のちにCCCと新図書館の指定管理者の座を争ったTRCは完全にカムフラージュのために使われたのではないでしょうか」

それにしても、ツタヤ図書館ができる自治体の手続きは、ことごとく不透明なのはどうしてなのだろうか。

ある関係者は、和歌山市に限らず、CCCが指定管理者になったツタヤ図書館を誘致したすべての自治体には、共通の問題点があると指摘する。

「武雄市の前市長が『スピードは最大の付加価値だ』と言っていました。市民が情報開示請求をしても、決定プロセスがわかる資料がなんにも出てこなかった。それは、本来必要な手続きをすべて無視して事業を進めているからです。それに続いた自治体が、武雄市を視察して『こうやりました』と説明されると『ああ、それでいいんだ』となったのではないでしょうか」

当サイトで詳しく報じたように、和歌山から市と県に南海電鉄も加えた15名大視察団が、RIAが関係者会議で資金計画を発表する1カ月前に武雄市を視察していた。

ツタヤ図書館は、高層書架など特殊なつくりになっているため、建物の設計段階からCCCが深くかかわらないと実現困難だといわれている。事実、和歌山市の視察団が武雄市を訪れた前年に、宮城県多賀城市(16年にツタヤ図書館として新装開館)の職員も、まだ何も決まっていない初期段階に武雄市を視察してCCCサイドと密談をしていた。そのときのやりとりが克明に記録された文書が15年に内部告発によって暴露されている。

そのようなことから、和歌山市でも、図書館の指定管理者か決まる前から同様の密談が行われていたのではないかと疑惑の目を向ける向きが多い。

次々に沸き上がってくるツタヤ図書館の不祥事のなかでも、今回の和歌山での談合疑惑は、94億円という、これまでにない巨額の税金が投入されるプロジェクトだけに、コンプライアンス上、より深刻な事態をまねいているといえるのではないだろうか。
(文=日向咲嗣/ジャーナリスト)

ニュースサイトで読む: https://biz-journal.jp/2019/02/post_26814.html
Copyright © Business Journal All Rights Reserved.